日焼けのメカニズム

日焼けは危険な赤信号
日焼けするのはなぜ?

 夏の暑い盛りに真っ黒に日焼けしたコモもたちを見て、健康的だと思う人は多いと思います。
しかし日焼けは医学用語では「日光皮膚炎」といって、実は太陽光によるやけどなのです。太陽光線の中の紫外線によって皮膚が刺激を受けたためにおこるもので、肌にとっては決して健康的といえる状態ではありません。

また、肌が赤くなっても黒くなっても日本では日焼けといいますが、英語では日光に浴びたあと、赤く炎症を起こしている状態をサンバーン(sunburn)といい、数日後、色素沈着して黒あるいは褐色に落ち着いた状態をサンタン(suntan)と呼び区別しています。
サンバーンでは日光を浴びた4~5時間後から皮膚が赤くなり始め、24時間後ごろに最も強く、少し浮腫(水ぶくれ)を伴ってきます。

この赤くなるしくみは、皮膚に紫外線が当たると血管を拡張させる作用のある物質(プロスタグランディンE)が角化細胞でつくられることにより起こります。
その物質が真皮に届き、血管を広げることによって血液量が増え皮膚が赤くなるのです。

また太陽紫外線が、表皮や一部の真皮の細胞遺伝子に傷をつけ、その傷が治らないで残るとプロスタグランディンEが作られ、サンバーンが起きることがわかっています。
遺伝子の傷が残るとなぜ血管拡張物質が作られるのか、そのしくみはまだわかっていません。
しかし、皮膚が赤くなる度合い、つまりサンバーンがひどいほどDNAの傷も多いことがわかっています。日焼けした皮膚が赤くなるというのは、たんに皮膚の 血液量が増えたということではなく、遺伝子についたたくさんの傷が直らないで残っていることを物語るのです。

遺伝子に傷をつける!

紫外線が遺伝子を傷つけるってどういうこと

 まず、遺伝子とはどんなものでしょうか、ヒトの一個の細胞の核には約3万個の遺伝子があるといわれています。
遺伝子は親の特性を次代に引き継ぐ設計図です。
遺伝子の本体はDNA(デオキシリボ核酸)という物質です。DNAは4種類の塩基(アデニン=A、グアニン=G、シトシン=C、チミン=T)、糖とリン酸の3者が連なってできています。
糖とリン酸はお互いに結びつき、長い2本のらせん状の鎖になっています。
そしてこの2本の鎖を結び付けているのが塩基です。
これらの塩基3個の1つの単位となって1つのアミノ酸が決定されます。
さらに、遺伝子は多数のアミノ酸の配列を決めています。つまり遺伝子は親から子へアミノ酸の並び方を伝えているのです。

このアミノ酸が何十、何千とつながって蛋白質となり、その蛋白質が人体を作るのです。遺伝子DNAの役割は生命活動をつかさどる蛋白質の設計図といえます。
DNAの傷というのは、2本の鎖をつなぐ塩基の結びつきに異常が起こることを指します。通常、塩基は必ず向かい合ったA-T、あるいはG-Cという決まっ たパートナーと2本の鎖の間で結びついています。そこに紫外線が当たると、A-Tを結び付けていた手が切れて、本来はありえない、隣り合った同じ鎖上の塩 基、特にTとCが並んでいるとT-T、T-C、C-Cのように結びついてしまうのです。

そのため、細胞分裂の準備として設計図をもう1つ書く、つまりDNA鎖が2倍になるときに傷ついたT-Tなどの隣同士の結びつき(2量体と呼びます)があ ると、新しいDNA鎖では塩基の配列が違ったものになり、その結果、本来とは違ったアミノ酸になり、蛋白質も正しいはたらきを持たないものになります。こ れを突然変異と呼んでいます。
ふつう細胞は、紫外線でできた傷(2量体)を上手に元通りに治すしくみを持っています。専門的にはヌクレオチド除去修復と呼ばれています。

なんと20種以上の蛋白質のはたらきで1つのDNAの傷(2量体)を効率よく治していることがわかってきました。細胞のはたらきに必要な蛋白質の合成に使 われている遺伝子の傷は一早く直すなど素晴らしい能力を持っていますし、DNAの傷を見つける役目の蛋白質や、間違っているDNAを切り出して捨てるハサ ミの役目を持った2種の蛋白質などが知られています。
ところが、あまりに強い日焼けでDNAに傷が多量にできると、このはたらきが追いつかず、そのためたくさんの傷が残ったり不適切に処理されてしまい、突然変異が起きる確率が高くなります。
さらに、紫外線によって発生する活性酸素がDNAに違ったタイプの傷を誘発します。

このようにあまりに強い紫外線は、DNA修復をになうしくみの手に負えず、突然変異を引きおこしたり、ひいては将来のシミや皮膚ガンの発生につながることになります。

紫外線Q&A 市橋正光著より